黄は、中国では皇帝だけに許された高貴な色だった一方、西洋では裏切りや臆病という負の連想を歴史的に帯びてきました。中国では黄(黄色)は五行思想で中央・大地を表す色とされ、明・清の時代には皇帝の龍袍(りゅうほう)や紫禁城の屋根瓦に用いられる、皇室専用に近い格別の色でした。日本でも、天皇の最高位の装束である黄櫨染(こうろぜん)が黄をふくむ色であるなど、黄は高貴さと無縁ではありません。
ところが西洋の歴史では、黄はしばしば否定的な意味を背負わされました。中世のキリスト教絵画で、裏切り者であるユダの衣が黄色く描かれた例があるように、黄は裏切り・不誠実と結び付けられ、臆病さを「yellow」と表す英語の俗語も残っています。同じ黄が、東アジアでは権力の頂点を、西洋では裏切りの烙印を象徴しうる。色の意味が歴史的な物語や宗教的文脈の中で形づくられることを、黄ほど鮮明に示す色はありません。
紫は、洋の東西を問わず、希少な染料ゆえに高貴・権威の色とされてきた点で例外的に一致します。古代地中海では、巻貝(アッキガイ)からごくわずかしか採れない貝紫(ティリアンパープル)が珍重され、ごく少量を染めるのに大量の貝を要したため、紫はローマ皇帝や高位の聖職者だけが身につけられる色でした。日本でも、603年の冠位十二階で紫が最高位に置かれ、紫草の根である紫根から染める紫は高位を象徴する色とされました。東西いずれの文明でも、染めるコストの高さがそのまま色の格に直結したのです。